2010年11月1日月曜日

笑って過ごすという事(中編)

→前編より

去年のお祭りは喪中と言うこともあって、法被を着ずに子供の守に専念していた。喪が明けて今年。仲間に誘われては居たけども、やはり練習など参加する気にはなれなかったが、娘の笛デビューと言う事もあって、当日は法被に袖を通し出ることにした。

酷い土砂降りの中でのお祭り一日目を終え、演芸会のある二日目。前日の雨もウソのように晴れ渡っていた。午前中の山車が終わって、皆が演芸会の準備に会場に集まってきていた。僕も会所にいる仲間達の顔を見るために、二年ぶりに顔を出した。

Kさんがいた。

会所のテントの前の大きな豚汁とおでんの鍋。その前に座ってかいがいしく動いていた。
生きていてくれた。がんに負けず、生きていてくれたんだ。

すっと近くに立った僕に気付くと、立ち上がり手を取ってこう言ってくれた。
「大変だったねえ。辛かったねえ。」
この一言が引き金となって、またも僕の色々な想いが涙となって吹き出してきた。
お祭りの会場で、人目もはばからず、僕は泣いた。

言葉にならなかった。

「Kさんが生きててくれて良かった」という想いとかみさんへの想いがごっちゃになって、頭の中にあふれかえっていた。

「あんた、何を泣いてるの。お祭りだもの、楽しくしなきゃ」
笑いながら、Kさんは僕の肩を叩いた。「そうだね」と言いながらもまた涙をこぼした。そのまま涙を抑えられず、僕はその場を離れた。Kさんはニコニコして、また座った。本当にお祭りが楽しそうだった。

一人になりたくて、少し離れたところに立っていると、青年部の若者が寄ってきた。精悍な顔つきをしたY君という青年だ。
「お袋のために泣いてくれてありがとう」
そうだったんだ。いや恥ずかしながら、顔は知ってても、まさか親子とは思ってなかった。
少し様子を聞いてみた。病気の具合はどうなんだ?
「うん、まあ、あまり良くない」
そうなのか。端から見てるととても病人に見えないくらい、元気の良い姿なのに。でもとても楽しそう。きっと楽しみにしてたんだな。

空を見上げた。暑かった長い夏が終わり、ようやく秋らしい空がみえていた。
ふとかみさんの事を思った。
あいつも、今この空を見上げているんだろうか、と。

→後編へ続く

0 件のコメント:

コメントを投稿